今回ご紹介させていただく制作事例は、株式会社 ニューテックジャパン 様の『鎌倉天幕』ブランドのオリジナル織りネームです。
鎌倉天幕ブランドのWebサイトはこちらから
アウトドアを趣味にしている人であればご存知の人が多いとは思いますが、高品質はもちろん、ユーザーのことを考えたアフターサービスで有名なブランドです。
近年はキャンプブームで多くのアウトドアブランドからテントやタープなどが販売されていますが、個性的なスタイルをした格好良いテントとタープが印象的です。
しかも、使用している生地やポールにも機能的な要素を盛り込み、機能性が大好きな男性には最高のキャンプギアと言われているのが分かります。
そんな鎌倉天幕ブランドの織りネームを製造させていただいたのは5年ほど前になります。
白石代表様から直接お問い合わせいただきました。
対応した担当者は失礼ながら鎌倉天幕ブランドを存じ上げておりませんでしたが、Webサイトを拝見すると、強いこだわりが入った製品を開発されていることが伝わり、「ブランドの顔になる」織りネームにも私たちのこだわりを込めてお作りさせていただきました。
予めご希望の織り方をお知らせいただき、納期もお急ぎのようでしたので弊社からのご提案の織り方も含め、織り方サンプル画像をお送りさせていただきました。
白石様は織物にも非常にお詳しく、数回のお打ち合わせで制作内容をお決めいただき、お問い合わせから3日後には設計図の作成に取り掛かることでき、短期間での納品にご協力いただけました。
お作りするブランドタグはキャンプ用品に使用されること。また、ブランドネームには漢字とアルファベットが入っていました。
この情報から型と呼ばれる設計図作成担当者が力を入れたのが下記の3点です。
(1)擦れに強い生地
(2)英字のセリフ部分の再現
(3)漢字の曲線の滑らかさ
(1)擦れに強い生地
この機能を実現するには『裏朱子』という織り方を選びました。
一般的に擦れに強い織り方は平織りですが、細い線や小さい文字の再現は難しいことが多いです。
今回のデザインを拝見し、裏繻子織をご提案させていただきました。
また、今回は『センターフォールド』という折り曲げ加工をおこないますので、ヨコ糸をどちら方向に走らせるのかなども含めて織り方を決めています。
裏朱子織りの特徴はこちらを御覧ください:出口の技術-裏朱子織
(2)英字のセリフ部分の再現
デザインデータの英字には下記の赤丸のような特徴があります。
アルファベットの先端にあるこれらは、”セリフ”や”うろこ”と呼ばれる小さい飾りです。
特に「T」と「E」のアルファベットの先端には上下方向に飛び出すセリフがあります。
小さい文字の場合、この飾りのような小さい線は通常通りの設計図を作る作業では再現されにくいことが多いです。
初回に試し織りをした上の生地では上下方向の飾りが小さかったり、欠けているものがあります。これらの部分がいくつもあるので、担当者がルーペで生地を確認し、一箇所ずつ手作業で設計図を直していきます。
そして、最終的に完成した生地ががこちらです。
飾りを再現するヨコ糸を表面に出るように修正し、上下方向の大きさも揃えられる箇所は揃えています。
パッと見ても分からないかもしれませんが、文字全体として見るとセリフ体と言われるフォントの雰囲気が伝わるための大事な部分だと思います。
ちなみに、下の緑丸の部分で左右方向の線が途切れている部分があります。
この部分は黒いタテ糸で文字を表現している白い糸を留めている部分です。
この留めが無いとヨコ糸が長く表に出続け、ブラブラして直線を表現できないので、文字の表現に支障が少ない箇所で糸を固定しています。
(3)漢字の曲線の滑らかさ
デザインデータの漢字の書体は、全体に滑らかな印象があります。
織物で再現が難しいのは曲線部分です。線の輪郭がガタガタすると滑らかな線に見えません。
下記は初回の試し織り生地です。ベース地の色は試し織り工程の効率化などの理由で別の糸で進めることもありますが、完成までには色の確認も試し織りでおこなっています。
「鎌」という文字の赤線部分は上下方向の直線ですが、微妙に斜めになっていて、カクっと右にズレて線が続いているように見えます。
また、赤丸のはらいの根本部分が詰まった漢字でスッキリしていません。
このような箇所を手作業で修正していきます。
修正前と比べると滑らかな線になり、すっきりとした漢字として表現できたと思います。
さらにもう1点ご紹介します。
こちらの「倉」という文字は、赤丸部分の縦線が太くなりごちゃごちゃして見えます。
また、赤線のように口の縦線が機械的に急に細くなり、垂直の線に見えます。
こういう見え方をする部分を担当者が気づき、1箇所ずつ糸の動きを修正します。
修正後の生地では、赤丸部分は縦線が細くなりスッキリしました。
口の縦線も少し角度があり、漢字らしい口になりました。
という手作業による細かい部分の修正が多いのが設計図作成担当者の仕事です。
下の画像の上が修正前で、下が完成版です。
言われなければ分からない修正点もありますが、少しでもきれいに再現できるために、どの担当者も努力を惜しみません。
設計図の修正するたびに、工場で織機のスケジュールを組み直し、試し織り作業をおこないます。今まで使用してしていた糸をすべて試し織り用の糸に交換し、織機の設定も試し織り生地用に変更になるので、工場の製織担当者も大忙しです。
今回は合計6回の試し織りと設計図の修正をおこない完成しました。デザインによって変わりますが、少ない場合で3回。多いものだと10回を超える試し織りになることもあります。
設計図の完成がもっと早く、精度の高いデザイン表現ができるように、新たなソフト開発にも取り組んでいます。うまく活用できるようになれば、短納期のご要望にもお応えできると思いますので、今後も改善し続けます。
設計図が完成すると、量産工程に入り、完成版生地を確認しながら、糸の張力やカット位置を確認・調整しながら不良品にならないように織り上げます。糸の張力調整は担当者が糸を引っ張りながらその強さで決めていますので、まさに職人の技です。
そして、樹脂加工工程を経由して、検品・カット・折り曲げ工程をおこないます。
ここでも、検査担当者が全枚数を目視で確認します。
小さなキズや汚れなどをすぐに見つけられる目も経験が必要な仕事です。
最後にテープ状につながっていた織りネームを1枚1枚にカットし、お客様のご要望に応じた折り曲げ加工をおこないます。今回ご紹介させていただいた織りネームはサイズが大きいため、1枚1枚のカットと折り曲げは手作業でおこないました。
一般的なブランドタグなどに多い90mmまでの幅は専用の機械で折り曲げながらカットできますが、これもまた機械の調整に微妙な塩梅が必要で専任の担当者でなければ動かせません。
この折り曲げで失敗すると不良品になりますので、しっかりと調整しながら作業をおこない、カット作業後にも再度折り曲げが正しく出来ているのかを確認し、最終検品しています。
最近は緻密なデザインを採用されるお客様が多くいらっしゃいますので、型と呼ばれる設計図作成が長時間化しております。TVの解像度がフルハイビジョンから4Kになったように、細い線や小さい文字を留めの見えないように織り上げる高密度織りが人気で、細い糸を従来の2倍ほど織り込みデザインを表現します。
この高密度織りは織りネームだけではなく、お守りや御朱印帳などの生地づくりにも人気です。さらに私たちはシリアル番号や選手名などの文字を1枚ずつ異なるように織り込むことができます。
私たちが蓄積してきた様々な技術を使ってお客様のご要望にお応えいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
最後に、制作事例の掲載を許可いただきました白石様、誠にありがとうございました。
今後ともより良い製品をお作りするお手伝いをさせていただければ幸いです。